フェロカクタス |
1 はじめに
サボテンと言えばこのフェロカクタスであり、一般にも知れ渡ったサボテンの代表種である。
特に原生球の肌が見えないほど強刺に包まれた姿は格別で我がクラブにおいても愛好者は多い。 |
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赤刺の神仙玉 |
黄刺の金冠竜 |
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ところがサボテン栽培の中で一番難しいのがこのフェロカクタスなのです。
マミやロホホラ、牡丹などフェロに比べたらいとも簡単なものです。
美しい輸入球は軟弱な刺の発生と色褪せによって無惨な姿となってしまいますし、
実生苗においても大きくなればなるほど黒くクスんで見る影もありません。
日本の気候には合わないんだという宿命的なものによってあきらめざるを得ないのです。 しかし一方、
信州や新潟の寒い地方ではかなりうまく出来ていたり、
かといって愛知より西の岡山でもうまく出来ています。
彼らに勇気をもらって「三河でも出来るかな?」と言う軽い気持ちで、
現在、試行錯誤を繰り返していますので今回その一端を紹介します。
なお、今回の稿はまだ目標半ば(刺の汚れ対策がまだ)ですので、
「これはこの方がいいんじゃない?」というのがありましたらよろしくアドバイス下さい。 |
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2 栽培
栽培のポイントは
@夏型か冬型か。
A強光線下に置く。
B周期的に植え替え。
C根は大事に。
です。では以下詳細に。
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(1) 夏型冬型
この種は経験上、大きく分けて夏型と冬型とがあります。主に生長期による違いなのですが潅水や植え替え時期
がズレますので、栽培はこの型を見極めてからとなります。
主たるものは表1のとおりですが、この中には中間的な性質のものもありますので、新刺が出ている状態で生長
時期を掴んでください。
潅水、植え替え時期は表4、表5にまとめましたので参考にしてください。 |
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表1、「夏型」・「冬型」の区分 |
区分 |
特 徴 |
主 な 品 名 |
夏型 |
主に黄刺 (強健種) |
王冠竜、瑠璃丸、文鳥丸、紫金城、カルメン玉、竜虎、黄彩玉、巨鷲玉、春桜 |
冬型 |
主に赤刺 (人気種) |
鯱頭、白鳥丸、刈穂玉、神仙玉、金冠竜、偉冠竜、偉冠玉、烈刺玉、ジョンストン玉
、夜叉頭、紅洋丸、江守、真珠、赤鳳、偉壮玉、竜眼、金赤竜、日ノ出丸 |
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(2) 強光線
透明ビニール1枚の強光線下に置きます。原地の光線は日本よりもはるかに強いようで、
このためこの種の肌は頑丈で強い光線に当ててもビクともしません。
ただし、夏場は温室を開け放ち十分な通風を計りますが寒冷紗等は必要ありません。
なお、実生小苗はさすがにこの環境では厳しいものがありますので5〜6センチになるまでは他の環境で育ててください。 |
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強光線用フェロカクタスの温室 |
実生小苗は別の温室で |
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(3) 培養土
フェロカクタスの用土も他と同様、排水性が良く、保水力もある赤玉土主体がベターです。
これに軽石、日向土、ピート(山城愛仙園)、炭(園芸店で売っている)を加え配合します。配合は表2に示しますがこれは一つの目安として下さい。
配合割合を変えても他の桐生砂、蝦夷砂、鹿沼土を加えても生長はあまり変わらない気がします。要は多孔質用土が重要です。 |
表2、 配合例(容積) |
区 分 |
配 合 例 |
夏 型 |
赤玉土6 |
軽石1 |
日向土1 |
ピ−ト1.5 |
炭0.5 |
冬 型 |
赤玉土4 |
軽石2 |
日向土2 |
ピ−ト1.5 |
炭0.5 |
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なお、これらの用土は事前にフルイにかけ、表3の3種類の粒径に揃えてから配合します。土が締まらないようにする
ため粒径を揃え、又、多湿にさせないために1o以下の微塵は抜きます。 |
表3、 用途別粒径 |
用 途 |
鉢の目安 |
粒 径 |
@ 小苗・実生用 |
実生用角鉢 |
1.0〜1.5o |
A 中苗用 |
3〜4号 |
1.5〜3.0o |
B 大苗用 |
5号以上 |
3.0〜5.0o前後 |
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(4) 鉢
生長本位に考えるならばプラスチッ ク鉢、美観を優先すれば陶器の鉢が良く似合います。
共に黒色が最適で、さらに鉢の肉厚が薄ければ薄いほど鉢内の温度が上昇して生長が良くなります。
使用する鉢の大きさは苗の直径と同程度が良く、あまり大きな鉢にすると、
鉢の中央まで熱が届かなくなって多湿状態が続くこととなり、生長が悪くなったり、下手をすると腐死してしまいます。
又、温室内では鉢と鉢の間隔をあけ、充分に日が当たるよう心掛けることも大切です。 |
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(5) 植え替え
フェロカクタスは植え替えを怠ると必ず障害が出ます。生長が止まったり、軟弱刺になったり、
刺がボロボロ取れたりしますので定期的に植え替える必要があります。
大球(7号鉢以上)は3年毎、中苗(5〜6号)は2年毎、4号(12p)鉢以下は毎年の植替えが必要です。
方法は、鉢底をゴロ土で塞ぎ、大苗用の土で均し、鶏糞(完熟袋を1年間そのまま放置後使用する。
臭いがあっても問題はない)を底肥として適量入れて植え込みます。
鉢の表面は化粧砂や大粒の土を敷くと潅水時に土が飛ばないで済みます。 |
植替えの適期ですが、これは夏型と冬型では少し違いますので、下表の4、5「年間管理表」を参考にしてください。
根の整理については、夏型は生長の早い強健種ですから根が多い場合は次の鉢に収まるまで切り詰めても大丈夫で、
切り詰めた場合1週間位乾燥させてから植え付けます。
冬型はもともと根が弱いので切り詰めるのは避けた方が無難です。これらは、
抜き上げたら軽く根を揉んで古い土を落とし、1〜2日程日影で干してから植え込みます。 |
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(6) 潅 水
夏型の成長期は春〜秋、冬型の成長期は秋〜春です。これを一応の目安にしますが、個別には新刺が出ている時が生長期、
止まった時が休眠期ですからこれを確認し潅水します。
生長期は高温多湿の状態が良く3日に1度の割でジャンジャン与えます。なお、休眠期は湿度が低い方が良いのですが、
生命維持の水は必要ですので、2週間位に1度、鉢の一角に軽く施すようにします。 |
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(7) 病害虫
病気は、大球ではたまに斑点病に犯されます。もし肌に茶色の斑点が付いた場合は殺菌剤(ベンレ−ト、ダイセン、ダコニール等)を施します。
小苗は灰色カビ病に犯されやすく実生1年生などは全滅の憂き目にあう場合があります。
さらにこれはフェロ特有ですが実生2〜3年生のものまでやられますので時々殺菌剤を散布してください。
もしこの病気が発生した場合は直射日光に当て水を切ると治まりますが進行が早いので早期発見が大切です。
病気ではもうひとつ、バイラスがあります。これに犯されるとフェロは病班が目立ち、もう捨てるしか方法がありませんので注意が必要です。
害虫については、浸透移行性殺虫剤「ダイシストン粒剤」が非常に有効です。鉢の上へ少量置くだけでOKでワタムシ、
カイガラムシ、ネジラミ、ハダニなど一切居なくなります。 |
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(8) 実 生
実生については、他の属と同一ですので詳しい説明は省略します。ただ、この種は前項でも書きましたが灰色カビ病に非常に弱く、
実生3年生くらいになっても感染します。種の粒数が多いのはこのせいかもしれません。
実生苗の生育は実生3〜4年くらいまでは夏型冬型関係なくすこぶる良好ですが、冬型の場合、
コブシ大になった辺りから冬型の特徴を現すようですので、潅水時期には注意してください。
なお、実生苗の生育を早める方法として、1〜2月から4月頃にかけて、温室内にトンネルハウスを作り、
水をドンドン与えるとすばらしい生長を遂げ、その後の管理も容易ですのでお試しください。 |
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表4、 「夏型」 年間管理表 |
作業項目 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
備考 |
潅 水 |
--- |
--- |
+++ |
*** |
*** |
*** |
+++ |
+++ |
+ |
* |
*** |
+++ |
+ |
・ |
凡例 |
*** |
多・強・適期 |
+++ |
同 中 |
--- |
同 小 |
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植 替 |
・ |
・ |
+ |
* |
*** |
*** |
+++ |
+++ |
+ |
* |
*** |
+++ |
・ |
・ |
交 配 |
・ |
・ |
・ |
*** |
*** |
* |
・ |
・ |
・ |
・ |
・ |
・ |
・ |
実 生 |
・ |
・ |
・ |
+++ |
*** |
*** |
*** |
+++ |
*** |
・ |
・ |
・ |
害虫駆除 |
・ |
・ |
・ |
・ |
*** |
*** |
*** |
*** |
・ |
・ |
・ |
・ |
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表5、 「冬型」 年間管理表 |
作業項目 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
備考 |
潅 水 |
+++ |
・ |
+++ |
*** |
*** |
* |
+ |
--- |
--- |
- |
+ |
+++ |
+++ |
+++ |
凡例 |
*** |
多・強・適期 |
+++ |
同 中 |
--- |
同 小 |
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植 替 |
+++ |
*** |
* |
- |
+++ |
+++ |
・ |
・ |
・ |
* |
*** |
+++ |
+++ |
+++ |
交 配 |
・ |
・ |
・ |
*** |
*** |
* |
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・ |
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実 生 |
・ |
・ |
・ |
+++ |
*** |
*** |
*** |
+++ |
*** |
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害虫駆除 |
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・ |
・ |
・ |
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*** |
*** |
*** |
・ |
・ |
・ |
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3 刺の汚れ対策
小苗のうちはそうでもないのですが、ある程度の大きさになるとスス病による刺の汚れが目立ちます。
汚れの原因は「蜜」と「湿度」。 冬型フェロを栽培する上で最大の懸案です。
まず「蜜」ですが、生長期、刺座に水滴状に付くのが「蜜」です。
放っておくと毛管現象で刺に伝わり数週間後には刺が真っ黒になります。いろんな人に潅水で流せ!蟻に舐めさせろ!と聞きますがうまく行きません。
特に夏の終わり頃に出てくる「蜜」は休眠期のため潅水もままならずどうしようもありません。
又、「湿度」ですが、多湿が続くと刺の先端が黒く変色します。
対策としては以下のものがありますが現在試行中もしくは考慮中ですので参考としてください。 |
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(1) 蜜対策
蜜は基本的には潅水で流すしかありません。蟻も刺座に群がりますが効果は確認できませんし砂粒を刺座に運びますので家では害虫扱いしています。
春の蜜は多めの潅水、秋の蜜は少量の水で効率良くということになりますが完全には取れないものです。
余談ですが交配種(偉冠玉、神仙玉×金冠竜、鯱頭×神仙玉等)は蜜の出が少ないようなので全般にきれいに出来ます。
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(2) 湿度対策
常に乾燥を念頭においた対応が大事です。床をコンクリート等で塞ぎ、潅水は良く晴れた日の朝に、雨の日は温室を閉める
等々、湿度が上がらない工夫をすれば成績は上がると思います。 |
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(3) 刺の洗浄
この三河地域では刺を洗うということはあまり聞いたことも無く、そんな習慣も無いのですが、信州や関東方面ではよく洗っているようです。
方法は、洗剤を付けて歯ブラシでこするとか、アルコールで拭くとか、カビキラーを噴霧する(品によって肌が傷むものがある)とかいろいろです。
我が家も今年、真っ黒の夜叉頭を洗ってみました。写真のとおり洗う前と後では雲泥の差で効果は一目瞭然です。 |
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左側:洗った株/右側:洗っていない株 |
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刺のクローズアップ |
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綺麗に成った刺 |
真っ黒な刺の汚れ |
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塩素系の洗剤を噴霧しその後、歯ブラシでゴシゴシ洗いを数回繰り返し、多量の水で洗剤を流します。
刺座や刺と刺の狭い所はなかなかめんどうで結構力が要りますし、1鉢に約1時間程かかります。 |
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塩素系の洗剤 |
歯ブラシでゴシゴシ |
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今年はもっといい方法がないか検討中です。電動歯ブラシとか、歯医者が歯垢を取る時に使う超音波はどうかなと思うのですが。 |
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4 各地の栽培
(1) 信州・北陸
言わずもがな刺物の本場で愛好者も多い。冷涼な気候で寒暖の差が大きく、特に熱帯夜が少ないのがこの種に合い、どこの温室もきれいにできている。
しかし、ススによる汚れはいかんともし難いらしく、此方ほどではないにしろ例年冬場に刺を洗っているとか。 |
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(2) 新潟
信州と同じであるが、特筆すべきは昨年「魅惑の刺サボテン」のタイトルで強刺類専門書を出版された小林氏である。
寒暖の差をつけるために、昼間は温室を閉めて温度を上げ、夜間はクーラーを入れている。
10坪くらいの温室に業務用の大型クーラーが据え付けられて、夏場に訪問した折、早朝の温室内は14度であった。
聞けば「クーラーを入れてからフェロの問題点は一切無くなった」とのこと。
又、氏は平気で整形のためにフェロカクタスを胴切りしていた。発根は容易らしくて、
鉢受けの皿にバーミキュライトと植物活力剤の水溶液を入れて、その上に切ったサボテンを置いていた。
詳しいことを知りたい方は「魅惑の刺サボテン第5章刺サボテン栽培論」をご覧ください。 |
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(3) 山陽
寒冷地ではない岡山、広島にもうまく作っている人がいます。その中で、岡山のO氏の場合、信州、新潟にも負けない出来映えです。
特徴として、植え替えは真夏でその折殺菌剤を施しているとのことです。
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5 あとがき
前にも書きましたが、サボテン栽培の中で一番難しいのがこのフェロカクタスです。
「フェロカクタスを制すればサボテンを制する」と言っても過言ではないと思っています。
あの燦然と輝く赤刺、黄刺。肌に巻き付く狂い刺。天をも突き刺す超長刺。
日本では到底無理なのかもしれませんが、いつの日かそんな日が来ることを願っています。
今回、その日のための試行錯誤を記しましたがお解りいただけたでしょうか?思いつくままですから言葉足らずの面も多いことと思いますがその辺はご容赦ください。
なお、今回は強刺類のうちフェロカクタスのみとしましたが、他の強刺類(エキノカクタス、ハマトカクタス、ホマロケファラ等)の栽培もほぼ同じですので参考にしてください。 |